世界保健機構(WHO)が示す12項目の認知症リスク低減(その1)
根治療法はまだないが、リスクの解明は進んでいる
9/26「認知症の発症は高齢だけが原因ではない」の続きです。
前回はアルツハイマー病は遺伝をはじめとして避けられない要素がありますよというお話でした。
では不可避なリスク以外で認知機能の低下や認知症の発症リスクを下げるためにどのような方法があるのか。
WHOでは長年の研究の蓄積から12項目の推奨対策を示しています。
①身体活動(運動)
適度な運動は認知機能が正常レベルの成人に対して認知症リスクを下げる。
例えば65歳以上なら週150分の中強度の有酸素運動か、週75分の高強度有酸素運動、または同等の中~高強度の運動を組合わせたもの。
呼吸しながら長く続けられる運動のことです。ウォーキングやジョギング、水泳、自転車なんかがありますね。中や強の程度はご自分で感じながら試しましょう。
おすすめ度:強(注)ガイドラインには推奨と書いてありますが分かりやすく「おすすめ度」にしました。
信頼性:中(注)同エビデンスレベル(研究結果による裏付け、根拠)とありますが、分かりやすく「信頼性」としました。
その他:軽度認知障害の方にもおすすめ度「低」、信頼性「条件による(病気の程度や運動内容)」で推奨されています。
②禁 煙
これは説明の必要ないかと思いますが、認知症以外の健康を害するので、ひいては影響もあるということですね。
おすすめ度:強
信頼性:低(注)低い?わざわざ実験、研究するまでもなく喫煙は体に悪いということですかね。
③食 事(栄養)
地中海食は認知機能正常、軽度認知障害の成人に対して推奨してよい。地中海食!知ってる方いらっしゃいますか?その名の通り地中海沿岸部の国々の食事。
イタリア、スペイン、ギリシャとか。特徴は果物、野菜、乳製品・肉<魚、オリーブオイル、ナッツ、豆類、全粒粉など未精製穀物、食事とともに飲む適量のワイン。
オイルやナッツ、ワインを除けば古来からの日本食に似ていますね。ちなみに食文化が異なる日本ではお米に偏ることなくバランスよく副菜を摂取すれば良いとしています。
おすすめ度:中
信頼性:条件による
食事でもう一点が「健康的な食事に関する WHO 勧告」の健康的な食事。全成人向き健康食。ちょっと長くなります。
• 果物、野菜、豆類(レンズ豆、豆など)、ナッツ、全粒穀物(未加工のトウモロコシ、キビ、オート麦、小麦、玄米など)
• 1 日あたり最低 400 g(5 人前)の果物と野菜。ジャガイモ、サツマイモ、キャッサバ、その他のでんぷん質の根菜は果物や野菜に分類されない。
• 1 日あたり約 2,000 キロカロリーを摂取する健康体重の人の場合、総エネルギー摂取量のうち遊離糖類(ブドウ糖や果糖)からの摂取量は 10%未満であること(50 g または小さじ約 12 杯に相当)。
しかし、理想的には総エネルギー摂取量の 5%未満とすると、さらに健康上の利益が得られる。ほとんどの遊離糖類は製造業者や料理人や摂取者が食品や飲料に添加し、また蜂蜜、シロップ、果汁、濃縮果汁に天然の糖として含まれている。
• 総エネルギー摂取量のうち、脂肪からのエネルギー摂取量は 30%未満であること。
不飽和脂肪酸(魚、アボカド、ナッツ、ヒマワリ、キャノーラ、オリーブオイルに含まれている)は、飽和脂肪酸(脂肪の多い肉、バター、ヤシ、ココナッツオイル、クリーム、チーズ、ギー、ラードに含まれている)やあらゆる種類のトランス脂肪酸(加工食品、ファストフード、スナック食品、揚げ物、冷凍ピザ、パイ、クッキー、ビスケット、ウエハース、マーガリン、スプレッドに含まれる工業的に生産されたトランス脂肪酸や、肉・乳製品に含まれる牛、羊、山羊、ラクダのような反芻動物由来のトランス脂肪酸の両方が含まれる)よりも好ましい。
飽和脂肪酸の摂取量を総エネルギー摂取量の 10%未満に、トランス脂肪酸を総エネルギー摂取量の 1%未満に抑えることが推奨される。特に工業的に生産されたトランス脂肪酸は健康食の成分にはならないので避ける必要がある。
不飽和脂肪酸>飽和脂肪酸で、トランス脂肪酸✕という感じですね。
• 食塩は 1 日あたり 5g(小さじ約 1 杯に相当)未満であること。ヨウ素添加塩を用いること。
おすすめ度:強
信頼性:低~高
目的が認知機能低下や認知症リスクを低減するためにという条件でビタミンB、E、多価不飽和脂肪、複合サプリメントは推奨されないとのこと。ややこしいですねこれ。「期待しても効果ないから」という意味ですね。
多価不飽和脂肪酸と言えば青魚。DHAやEPAは頭にも良かろうと思いましたが、リスク低減の目的では推奨されないんですね。効果が認められるエビデンスがなかったようで意外です。くれぐれも「良くないということではない」ので誤解ありませんように。
私は好きなんで食べますが。
おすすめ度:強
信頼性:中
④飲 酒
これもあまり説明の必要がないと思いますが、認知機能低下や認知症リスクを低減させるために過剰な飲酒は止めるべきとのことです。百薬の長とはいえ、利益<有害。
おすすめ度:条件による(注)日本はともかく世界中で広く愛飲されているワイン消費との関係もあるんでしょうかね。
信頼性:中
⑤認知機能トレーニング
認知トレーニングは認知機能正常、軽度認知障害の高齢者に対して、認知機能の低下、認知症のリスク低減のために行ってもよい。
なかなか有意なエビデンスが得られていないようで残念ですが、たまに奇跡かと思うような事例も目にします。この分野の信頼性の積み上げはまだ道半ばですね。
「使わなければ弱る」は体中どこでも同じだと思います。使わないと「もういいのね?」と身体が活動を弱めます。人でもそう。
わたし期待されてない?じゃあさ~ぼろっと。ジムでも筋肉を鍛える際に使っている部位、例えば「腹筋を意識してくださいね!」とアドバイスされますよね?それと同じで脳神経細胞に「頼りにしてるよ~」と意識してみましょう。
おすすめ度:条件による
信頼性:非常に低い~低い
⑥社会参加
社会活動と認知機能低下や認知症のリスクの低減との関連については十分なエビデンスはない。ただ、社会参加と社会的な支援は健康と幸福とに強く結びついており、社会的な関わりに組み込まれることは一生を通じて支援されるべきである。
十分なエビデンスはなくとも文面から強く推奨を感じます。人は社会と関わってなんぼのところがありますからね。
おすすめ度:(注)なし
信頼性:(注)なし
本稿は一旦ここまでとさせていただきます。⑦以降は次回につづきます。
参照1:RISK RIDUCTION OF COGNITIVE DECLINE & DEMENTIA WHO GUIDELINES 外部リンク
参照2:認知機能低下と認知症の リスク軽減に関する WHO ガイドライン 邦訳版 外部リンク
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