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世界保健機構(WHO)が示す12項目の認知症リスク低減(その2)

これに気をつければ認知症リスクが下がる 後編

12項目の認知症リスク低減(その1)の続きです。その1では①身体活動(運動)~⑥社会参加をご紹介しました。
遺伝などの不可避なリスク以外で認知機能の低下や認知症の発症リスクを下げるためにどのような方法があるのか?
WHOでは長年の研究の蓄積から12項目の推奨対策を示しています。今回は残りの6項目をご紹介します。

⑦体 重
中年期の過体重、または肥満に対する介入は、認知機能低下や認知症のリスクを低減するために行ってもよい。」
ん?中年期とは何歳か?調べると結構バラつきありましたが、概ね40歳~64歳ですね。

太っていること自体はやはり様々な病気への近道となるので適性体重になるようにした方がいいですが、老年期においての体重減少は認知症の危険ありとの調査結果が出ています。日本語版注釈では誤解がないよう注釈がついています。

おすすめ度:低~中 (注)ガイドラインでは推奨の強弱として表記されていますが、分かりやすくおすすめ度にています。
信頼度:条件による (注)同エビデンス(医学的な裏付け、根拠)になっていますが、分かりやすく信頼度にしています。
 
⑧高血圧の管理
「高血圧の管理は、高血圧のある成人に対して認知機能低下や認知症のリスクを低減するために行ってもよい。」高血圧治療が認知機能低下と認知症の発症リスク低減に有効かどうかについて一定した見解はない。との記載の一方で、中年期に血圧が上昇し、その後急早に低下するパターンが認知症発症者に見られる。という報告も併記されています。

誤解がないように、これはあくまでも高血圧が認知症のリスクを下げるか?の観点で記載されています。
いずれにしても高血圧は良い状態ではないので、そもそも対策は必要ですね。

おすすめ度:条件による ※高血圧への対策としては低~高になっています。
信頼度:認知症との関連においては非常に低い ※高血圧への対策としてはになっています。

⑨糖尿病
「糖尿病の管理は、糖尿病患者に対して認知機能低下や認知症のリスクを低減するために行ってもよい。」
関連エビデンスに一貫性がないことからおすすめ度は低いですが、これも前述の高血圧と同じく放っておいていい訳がありませんね。繰り返しますが、認知症のリスクを下げる関連性についての観点で記載されたものですから。

おすすめ度:条件による
信頼度:非常に低い

⑩脂質異常(コレステロール)
「脂質異常症の管理は脂質異常症のある中年期の成人において認知機能低下と認知症のリスクを低減するために行ってもよい。」
これについても認知症との関連において一致した研究結果が得られていないようです。しかし中年期の脂質異常が密接に影響するという点で推奨されました。血圧、糖尿と同様に現時点で認知症と関係なくとも脂質異常も改善が必要なものですね。

おすすめ度:条件による
信頼度:低い
 
⑪うつ病
「現在のところ、認知機能低下や認知症のリスクを低減するために抗うつ薬の使用を推奨するエビデンスは不十分である。」としていますが「ただしこれは他の有益性からうつ病への対応は重要であり、介入に対する否定的な推奨をしているわけではない」としています。それでもこの12項目に選んで記載されている訳ですから重要度は高いと考えられます。
 
⑫難 聴
「認知機能低下や認知症のリスクを低減するために補聴器の使用を推奨するエビデンスは不十分である。WHO ICOPE ガイドラインで推奨されているように、難聴を適時に発見し治療するために、スクリーニングと難聴のある高齢者への補聴器の提供が行われるべきである。」

これもエビデンスは不十分ということですが、いつかここでもご紹介しようと思っているランセット委員会発表の認知症リスクでも「難聴」が挙げられています。”聞こえない”というのは社会参加や知的刺激を妨げる要因です。
日本では60歳代前半で5~10人で1人、60歳代後半になると3人に1人、75歳以上では実に70%以上が難聴と言われています。

聴こえにくい上に、早口でしゃべられるとその都度の判断も追いつきません。これはしんどいです。日本は欧米と比べて補聴器を利用する人が1/3程度だとか。耳になじむまでのセッティングも時間がかかりますし何と言っても高額です。難聴の程度により補助制度、医療費控除もできるそうなので「自治体の福祉担当」やお近くの「補聴器相談医」にご相談ください。

早期に認知症の治療法が見つかるように


以上WHO認知症低減リスクのその1と合わせて12項目をご紹介しました。

ここの説明ではエビデンスを「信頼性」、推奨度合を「おすすめ度」と書き換えましたが、皆さんもお読みになっていて「え、おすすめ度低いの?」「信頼性は非常に低いの?」と思われたに違いありません。それらはすべて専門家が責任を持って「こうです」と言えるエビデンス(裏付け、根拠)が揃っていないからです。

それでもリスクとして挙げられているということは、エビデンスは揃わないものの推奨すべきとの根拠があってのこと。
ガイドラインにはそうした過程や理由もしっかりと記載されていますのでご安心ください。

医学界(※)は裏付け・根拠を、定められた手続きと方法によって、研究・証明しなければなりません。それには気の遠くなるような時間も必要です。そうした努力の積み重ねがあって、私たちは正確な知識や正しい手段を手に入れることができます。※もちろん他の界でも同じです

認知症治療法や予防法がさらに進展するよう、関係者のみなさんにエールをおくります。



参照1:RISK RIDUCTION OF COGNITIVE DECLINE & DEMENTIA WHO GUIDELINES 外部リンク
参照2:認知機能低下と認知症の リスク軽減に関する WHO ガイドライン 邦訳版 外部リンク

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