NHKあさイチ『40代からの認知症予防』要約してみました
関心の高い認知症
HNKの全国放送はすごいですね。4/24に放送された『あさイチ 40代からの認知症予防』の告知を載せた翌日に、普段は静かな当サイトもアクセスが急上昇しました。翌日はさらに倍。おそらく放送内容をお知りになりたかった方がとても多かったのでは?と感じています。予告だけだったのでがっかりされた方のために放送内容に沿って独自に補足・加筆しながら要約してみました。
①40代から認知症予防をはじめる理由とは?
認知症は症状名であって病名ではありません。【いろいろな原因で脳の細胞が死んでしまったり、働きが悪くなったためにさまざまな障害が起こり、生活するうえで支障が出ている状態(およそ6ヵ月以上継続)を指します。認知症を引き起こす病気のうち、もっとも多いのは、脳の神経細胞がゆっくりと死んでいく「変性疾患」と呼ばれる病気です。
アルツハイマー病、前頭・側頭型認知症、レビー型小体病などがこの「変性疾患」にあたります。続いて多いのが、脳梗塞、脳出血、脳動脈硬化などのために、神経の細胞に栄養や酸素が行き渡らなくなり、その結果その部分の神経細胞が死んだり、神経のネットワークが壊れてしまう脳血管性認知症です。】(引用:厚生労働省HP)
どういう原因で認知症になってしまうのか?実は原因は100種類近くあるともいわれていますが(部位が脳だけに原因も様々です)、代表的な4つの認知症をご紹介します
アルツハイマー型認知症67.6%
一番多いのがアルツハイマー病による認知症で、アミロイドβタンパク質が脳に蓄積し神経細胞が破壊されて発症する説が有力です。日本の認知症の7割近くがアルツハイマー病ですが、その他の原因病も併発している場合も多いといわれています。
脳血管性認知症19.5%
高血圧・糖尿・肥満などの生活習慣病が原因で発症します。脳梗塞の他に、頭を打つなどのダメージも後々影響することがあります。
レビー小体型認知症4.3%
幻視をともなう認知症で、男性は女性の2倍の発症率といわれています。幻視が特徴なので最初は中々認知症と結びつかず分かりにくいです。動作が遅くなり転倒しやすくなるパーキンソン症状もあります。
前頭側頭型認知症1%
認知症で唯一難病指定されています。症状としては人格変化、反社会的な行動をするなど見守る周囲の負担が大きい認知症です。以前当サイトでも同型の認知症であることを公表した米俳優ブルース・ウィリスさんの記事を掲載しています→こちらから
アルツハイマーの原因は20年前に遡る、だから40代から予防開始
お読みいただいたように一番多い認知症はアルツハイマー病型。原因とされるアミロイドβタンパク質は20年以上かけて脳に蓄積するといわれています。もし60代後半で発症したのであれば40代後半からこのアミロイドβの蓄積が始まっていたことになります。
②アルツハイマー病の新薬登場、アメリカでは承認済み
その名は「レカネマブ」(当サイトの関連記事リンク)。アルツハイマー病の進行を遅らせることが期待できる薬です。原因といわれるアミロイドβタンパク質の周囲を取り囲み大きくなるのを防ぎます。これにより症状の悪化を27%抑えることが可能になると発表されています。90年代にはアミロイドβが原因ではないかと注目されていましたが、初めてこれに作用する薬として登場したのがこの「レカネマブ」です。
しかし実際に承認されても薬の値段(もちろん高額で)や症状によっては使えないケースもあるなど以前として課題は残っています。それでも患者や家族、専門家からは大きな期待が寄せられています。
認知症の薬はこれまでもありましたが、神経伝達物質を補うことで症状を緩和させるものでした(ドネペジルなど)。しかし新薬「レカネマブ」はアミロイドβに直接作用して脳細胞の破壊を抑えることができるといわれており、治験でも食事や着替え、入浴などで効果がみられています。
実用化には課題も
実用化に向けた課題としてまず値段。先行して承認されているアメリカでの費用は年間2万6000ドル(日本円で350万円)、治す薬ではない(進行を遅らせる薬です)ので、使い続ける必要があります。しかも2週間に1回”点滴投与”という負担もあります。
神経細胞が破壊された後では効果がなく(細胞とともに記憶が失われるので)、そうなる前に投薬を始めなければなりません。ではそのタイミングはいつからか?脳内のアミロイドβの蓄積程度を画像により調べる機械はありますが(アミロイドPETなど)、現在のところ設置は大学病院や専門病院に限られており、料金もかなり高額(保険適用外、数十万円前後)です。
③20年以内の認知症発症確率が検査できる
採血のみで20年以内の認知症危険度がわかる!昨年10月から始まったこの検査、血液をアメリカの研究所で分析、血中の7000種類のタンパク質から過去のデータと比較することで認知症発症確率を算出するそうです。
今年の予約はすでに1万4000件。採血から1か月後には報告書が到着。そこには20年以内の認知症発症リスク、平均値との比較、認知症になるリスクを高める体の状態などが記載されています。さらに保健師からリスクを抑えるアドバイスがもらえます。
放送の中では検査を受けたアナウンサー氏は発症確率6%で平均より低かったのですが、週に2~3回は10キロのウォーキングをしているにも関わらず「心配持久力スコア」が低いのを怪訝に思い保健師に訊ねました。実はウォーキングがのんびり過ぎて脈拍が上がっていないことが問題ですと言われていました。この他にも他者とのコミュニケーションが多くても、大量飲酒をすれば脳の萎縮リスクが1.2倍になるなど。
検査の主要項目は以下の4つ
「耐 糖 能」・・・血糖値の上昇を抑える働きのこと、高ければ脳の血管が傷つきアミロイドβが蓄積しやすい
「肝臓脂肪」・・・肥満、糖尿病、高血圧になることで認知症リスク
「アルコール」・・・過度の飲酒は脳を委縮させたり、血管を傷つける可能性が高くなり認知症リスク
「心配持久力」・・・低いと運動不足ということで血管等の病気につながり認知症リスク
認知症リスクは日々の生活習慣で高まります。普段多くの方とコミュニケーションがあっても生活習慣の乱れ、特に過度の飲酒により確率は高まります。この検査は全国27の医療機関で受けることができて値段は約4万円。紹介されていた認知症リスク検査はこちらで詳しくご覧いただけます→フォーネスビジュアス検査(外部リンク)
④鳥取県の認知症予防の取組み
さて、一体認知症を予防するにはどうすればいいでしょうか?ということで鳥取県が先進的な取組みをしているということで「とっとり方式認知症予防プログラム」が紹介されました。その素晴らしい成果とは?
3年前、医学論文に136人が参加したプロジェクトの成果が発表されました。軽度認知障害(MCI)の方が半年間予防プログラムを実施した結果、参加者の認知機能が改善されました。まだ認知症ではないけれど、その手前段階である軽度認知障害の状態から改善がみられたというのは、発症すれば進行するだけの認知症も、早い段階で対処すれば良くなる可能性があるということです。
このプログラムの特徴は「頭を使う」運動プログラム。音楽に合わせて体操しながら頭の中で数を数えてアクションするという運動が紹介されていました。いわゆるデュアルタスク(二重課題)というものですね。単に頭を使うだけ、単に体を使うだけよりも両方使った方が、血流を促しながら脳神経細胞を刺激しており認知症予防に効果があるんです。
運動プログラムの参加者は2週間に1度集まって、おしゃべりを楽しみながらあっという間の2時間を過ごします。考案者は鳥取大学医学部教授で日本認知症予防学会理事長の浦上克哉先生。先生は普段の生活でも工夫次第で認知症予防が出来ると話します。
⑤普段の生活が予防トレーニングになる
浦上先生は認知症予防の重要なポイントとして「運動」、「知的活動」、「コミュニケーション」の3つを挙げています。そして普段の生活の中で出来ることとして、
1.家の片付けをしている時は「視空間認知機能」を鍛えるチャンス
限られたスペースにきっちり物を片付けられるよう考えることで鍛えられます。
※視空間認知機構とは物の位置や向きを認識する機能です。
2.料理を作るときは「作業記憶」を鍛えるチャンス
その都度レシピを確認するのではなく、まずは一通り手順を覚えてから料理をしてみましょう。
※作業記憶とは何かの作業をする時に必要な情報を一時的に思い出す、あるいは一時的に記憶することです。
3.寝る前にその日の出来事を思い出せば「近時記憶」が鍛えらる
さらには日記を書くことがおすすめ。書くという行為は手指を使うので脳が活性化します。
※近時記憶とは数分前・数時間前、数日前、数か月前の記憶です。
認知症予防で鍛えたいポイントは他にも
・遂行力=計画する(その日の行動、旅行など)
・注意機能=探し物をさがす
・計算力=買い物(簡単な暗算など)
・思考力=会話
・判断力=車の運転
「会話」が一番簡単に思考力を鍛えられるそうです。相手に伝わるように話すにはどうしたら良いかを考えるのが大切。そういう意味では「芸能はいい仕事ですね」と出演者に対して話した浦上先生。さらに続けて「いつも同じ方と話すのはあまり効果はありません。知らない人と話す方が刺激になります。お店に入ったら店員さんと話してみるとか。ちょっとした緊張感がいいんです」とも。
頭を使わない会話、例えば脊髄反射的にしゃべるのでは効果は期待できません。脳を使う会話が重要です。最近多いスマホの利用についても、本来脳がすることをスマホがしてくれるので、使い過ぎると脳神経細胞が弱ってしまいます。日常生活の細々したことで脳は十分鍛えられるのです。
⑥認知症のリスクは40%が判明
イギリスの医学誌「ランセット」で発表されている判明した認知症リスクをご紹介。
8% 「難聴」
”聴こえない”ことはコミュニケーションの機会を失って社会的孤立につながります。補聴器の利用や聴覚訓練を。
7%「教育歴の低さ=知的好奇心の低さ」
新しいことにチャレンジするには刺激になりますね。
5%「禁煙」
認知症に関わらず今や万病のもとになっています。
4%「抑うつ」「社会的孤立」
刺激となるコミュニケーション(会話など)を阻害する要因になります。
3%「頭部外傷」
血管性認知症のリスクが高まります、転倒などに要注意ですが、高齢になると自宅内でも転倒の危険が。
2%「運動不足」「高血圧」「大気汚染」
脳や体の血流に関わるリスクです。
1%「過剰飲酒」「糖尿病」「肥満」
過度なお酒は脳を委縮させるリスク、さらにアルコール性認知症というのもあります。生活習慣病もリスクを高めます。
上記はいずれも「自分で努力できる、気をつけられる」ものが多いですね。こうしてみると認知症予防においては「運動」「節制」はもちろん大切ですが、コミュニケーション=他者との関わりも重要なことが分ります。
⑦コーヒーで認知症予防はお客さんへの感謝から
同県の境港市にあるコーヒーショップのオーナー澤井由美子さんがVTRで登場。お店の裏にある農業用ハウスでコーヒーの木2万5千本を栽培しています。喫茶店だから?いえいえ、生のコーヒー豆(焙煎前)に脳神経細胞に効果があると言われる「トリゴネリン」が含まれているからです。澤井さんは「トリゴネリンを投与したマウスの脳神経細胞が活性化した」という論文が発表されたという記事で知ったのがきっかけです。
常連客に恩返しを
40年前に旦那さんとともに開業した喫茶店。ある日常連のお客さんに異変が。「コーヒーの香りが無くなった」。実は匂いが判らなくなるのは認知症の初期症状でもあります。そのお客さんは後に認知症を発症されたそうです。支えてくれたお客さんのためになればと試行錯誤を重ねること4年、生豆を使った認知症予防のコーヒーが完成しました。お客さん達も喜んでくれました。今ではコーヒーの葉(これもトリゴネリン含有)を使ったお茶も開発されたそうです。
ご紹介した澤井珈琲の詳細はこちらから(外部リンク)
⑧認知症の前に嗅覚異常
匂いが判らなくなる現象について、浦上先生は「鳥取大学病院勤務の20代の頃からもの忘れ検診で県内を調査してまわっていました。こんな若造でも、大学病院からわざわざ先生が来てくれた、とお茶とお饅頭を出してくれる人が多かったのです。ところがある家で出されたお饅頭は明らかに異臭がして腐っていました。しかも何軒かで同じことが続き、おかしいな?と思い冷蔵庫の中の臭いまで調べた結果、認知機能が衰えるより前に「嗅覚に異常」が起きる(※)ことが分かりました。
※アルツハイマー型とレビー小体型の認知症において記憶障害の前に嗅覚障害が出現することが報告されています。
実は動物の中で一番嗅覚が退化しているのが人間なんです。現在では嗅覚検査も用いて認知症診断をしています。匂いの判別ももちろんですが、最近料理の味付けが変わった濃くなった、味の好みが変わったと言われたら要注意です。
⑨視聴者からの質問に浦上先生が回答
質問:認知症は遺伝するの?
回答:遺伝性の認知症はあります。しかし日本人は1%以下で極めて低い。それよりも生活習慣に注意してください。
質問:認知症ともの忘れの違いとは?
回答:例えば食事。加齢によるもの忘れの場合は「あれ何食べたっけ?」とメニューを忘れますが、認知症では食べたという行為 自体を忘れます(記憶されていない)。この他には「忘れたことで誰かに迷惑をかけたか?」も目安になります。迷惑をかけていなければ大丈夫です。
要約は以上です。ここまでお読みいただきありがとうございました。40代から認知症予防とはアルツハイマーの原因であるアミロイドβの蓄積と関係していました。今、注目されているのは「睡眠」。アミロイドβは中高年になってから発生するわけではありません。若い時は睡眠中に脳外に排出されているそうです。良質な睡眠をとることも有効な予防策になりそうです。発表を待ちたいですね。
厚生労働省は2025年に65歳以上の5人に1人が認知症になると予測しています。軽度認知障害も含めると4人に1人が何らかの認知機能の異常を抱えていることになります。今後も引き続き有効と思われる予防情報をお知らせします。
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